藤原和彦

私が最近憤慨した表記が「統一と聖戦」です。日本の多くのマスメディアが、イラクでテロの猛威を振るうイスラム・テロ組織「タウヒード・ワ・ジハード」にあてた邦訳です。この組織は、ヨルダン人アブムスアブ・ザルカウィが率いる「イラクの聖戦アルカーイダ機構」の前身ですが、「統一と聖戦」という訳は甚だしい誤訳です。「タウヒード・ワ・ジハード」の正しい訳は「神の唯一性と聖戦」です。「神の唯一性」を「統一」と間違えたわけです。この誤訳は何に由来するのでしょうか。 「タウヒード・ワ・ジハード」のタウヒードについて、英米通信社は通常ユニティー(unity)と英訳しています。ユニティーを英和辞典で引けば、まず「統一」の訳語が目につきます。そこで、日本マスメディアの記者や編集者は、「統一と聖戦――イスラム過激派が統一して聖戦を行うという意味だな。これでいこう」となったのではないでしょうか。私の記者時代とデスク時代の経験に基づく推測です。実は、米英通信社がユニティーという英訳に持たせた意味は「統一」ではありません。「唯一性」、つまりトリニティー(trinity)(神の三位一体)に対する「神の唯一性」という意味を持たせたのです。 タウヒード・ワ・ジハードの誤訳の根は、米英通信社電に依存している日本マスメディアの現状にあると言ってよいでしょう。